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Vol.2 No.2 December 1998

  1. 号頭言(金澤康徳)
  2. 第13回日本糖尿病動物研究会の開催にあたって(清野 裕)
  3. 研究内容の紹介(池田 衡)


号頭言
 日本糖尿病動物研究会のさらなる発展について

自治医科大学付属大宮医療センター
金澤 康徳

 日本糖尿病動物研究会は13年前に後藤由夫教授(当時)の発案で、仙台市で第1回の会合を開いた。当時はGKラットが固定された系として確立され、NODマウスの研究が進められ活気を呈していた。特にNODマウスは欧米の研究者からの強い要望もあったが、垂井教授(当時)の「きちんと特性を調べてから」という考えから圧力に屈せず、しばらくの間国内でのみ研究が進められた。
 世界の自然発症糖尿病動物研究の近代的な始まりは、中東の砂漠で見つけられヨーロッパ等でペットとして飼育された糖尿病動物、アップジョン社の研究所の動物舎及び我が国の特に製薬会社の研究所の動物舎からであるといっても過言ではない。サンドラット、スパイニイマウスは中東から、肥満マウス、KKマウスはそれぞれの動物舎において造り出されたコロニーである。いずれもこれらの動物に糖尿病ありと見抜いた慧眼の研究者が居たことがポイントであった。
 実務的に根気強い活動を続けたのはデュッセルドルフのHerberg博士、ジャクソン研究所のLeiter博士らであり彼らの功績は大なるものがあった。我が国では製薬会社の研究所の研究者、特に岩塚博士らの活動が糖尿病動物の研究発展に重要であったことはいうまでもない。しかし世界の糖尿病動物の研究をまとめリードしたのは、ジュネーブ大学のRenold教授とハダッサー大学のShafrir教授であった。我が国ではその役を果たしたのは後藤由夫教授である。これらのリーダーの存在は糖尿病モデル動物研究が今日あるために欠くことが出来ない。
 自然発症糖尿病研究の国際的集会は、1966年に行われた第1回ブルックロッジシンポジウムを始めとしてアップジョン社主催のものが3回、米国NIH主催のものが1回行われたが、それらを基にしてRenold、Shafrir両教授はより広く世界の糖尿病動物の研究者を集めて討議する会をつくりたいと考え、エルサレムにて1982年Lessons from Animal Diabetes(LAD) の第1回目のワークショップを開いた。6日間に渡る会議は、糖尿病動物研究全般に渡る大変に大がかりなものであった。その記録集は現在でも糖尿病動物研究の古典と考えられる。その緒言にこの研究会の目的ともいえる文章がある。
"Obviously no single model of human diabetes exists in animals since even the human diabetic syndrome is multifactorial. Our main purpose is to provide background for the genaration of new ideas for future research. We feel that this is best achieved by presenting the wealth of existing knowledge from all known species, each manifesting particular aspects of the diabetic syndrome(s), and thus offering the individual investi-gator the widest possible selection for the choice of novel inroads.
We hope that the clinician too will benefit from the information about similarities and dissimilarities that have been uncovered between human and animal diabetes, and will be stimulated to test the new findings as to the pathogenesis or their possible implementation in patient care."

 繰り返しの説明は避けるが、糖尿病モデル動物の研究は自然の行った実験ともいえる自然発症糖尿病動物を分析し、ヒト糖尿病への理解(代謝面、遺伝の面で)を深めることにあるといえよう。
 その後1988年にRenold教授が亡くなり、国際的にはShafrir教授が奮闘して研究をまとめようとしているが、世界的に興味は遺伝子装作によって造られた動物の研究が主流となり、自然発症の糖尿病動物を分離して系統を作り分析していこうとする根気のいる仕事をする研究室はきわめて少なくなってしまった。動物が単に遺伝子装作の場として用いられ、研究の材料として使われることはヒト糖尿病の謎を解く動物モデルの研究とは本質的にはかけ離れたものになりつつあることは大変に嘆かわしい。Lessons from Animal Diabetesの国際ワークショップも後藤先生が東京で行った第3回大会までは免疫のグループも一緒に行いかなり盛況であったが、NODマウスやBBラットを中心に研究しているグループがヒト1型糖尿病を研究しているグループと一緒になりImmunology of DiabetesWorkshopとして別れ、さらに現在のImmunology of Diabetes Society(IDS)として学会をつくり隆盛になってくると、LADの会合はIDSの付け足しのような形になってしまっている。コペンハーゲンのLAD」Iはノボノルディスクの強力なバックアップでからくも面目を保ったが、LADVIIについては今のところ予定がたっていない。これは自然発症糖尿病の研究には世界的にスポンサーが付きにくくなっているからである。
 振り返って我が国の糖尿病動物研究はGK、NODマウスという大ヒット動物を生み出し、NSYラット、OLETFラット、LETLラットという動物がつくられ、LETLラットはさらに米田博士の努力により育種学のテクニックを十分用いて糖尿病頻発系が確立され、AKITAマウス等の極めて重要な系統の分離・確立が行われ、さらに今後も新糖尿病動物の分離への研究がなされている。  そのような意味では、自然発症糖尿病動物の本来の形での研究は大きく我が国がリードしていることになる。日本糖尿病動物研究会は池田義雄先生の組織力をもって研究会の永続性の保証が確かなものとなり、海外からも注目されつつあることは大変心強く、世界的に類を見ない本研究会の国際化が今後考えられていくべきではなかろうか。


 

第13回日本糖尿病動物研究会の開催にあたって

京都大学医学研究科病態代謝栄養学
清野 裕

 平成11年2月5日(金)と6日(土)の2日間にわたり、京都リサーチパークを会場に第13回日本糖尿病動物研究会を開催いたします。今回は、パリ大学のPortha教授に2型糖尿病モデルGKラットについて、秋田大学の小泉教授に新たな糖尿病モデル動物Akitaマウスについて、ご講演いただく予定です。また、一般演題として、1型・2型糖尿病の成因から病態・治療、さらには合併症など多彩な研究成果が報告されます。
 特別講演をいただく糖尿病モデル動物は、いずれもわが国で樹立されました。これら以外にもNODマウスやOLETFラットなど多くの糖尿病モデル動物が、わが国から報告されています。これらの糖尿病モデルラットの研究を通じて、世界中の糖尿病研究者が得た知見は計り知れません。したがって、わが国でも激増する糖尿病やその合併症の病態解明に、本研究会が果たす役割の大きさを実感しております。  本研究会には、日本各地から糖尿病モデル動物の研究に従事する第一線の研究者が集まります。 是非、若手の糖尿病研究者も多く参加され、活発な議論が行われることを願っています。


 

武田薬品の糖尿病研究の紹介:温古知新

武田薬品工業創薬研究本部
池田 衝

 当社の糖尿病研究は、名古屋大学農学部近藤恭司教授から糖尿病モデルマウスKKを導入した1963年に始まる。導入当初、KKマウスが高血糖を発症せず、このことが糖尿病の病態を深く調べる契機となり、その後の当社の糖尿病研究の礎となった。当社の糖尿病研究の足跡を紹介することは糖尿病をより理解する一助となると思う。
 高血糖がみられないKKマウスでもOGTTを行うと典型的な糖尿病型血糖曲線を示すことが分った。この結果から、KKマウスは遺伝的には糖尿病素因を持っているが、何か別の因子が欠けるため、高血糖が顕在化しないのではと考える根拠になった。導入前との比較から体重(=肥満)がその因子であることに気づき、体重に影響を及ぼす種々の要因(例えば餌の形状・組成・栄養価、1ケージ当りの飼育匹数、週齢)がKKマウスの高血糖の顕在化に関与することを明らかにし、糖尿病の発症のリスクファクターとしていち早く肥満に注目した。さらに、KK、ICRおよびC57Bの3系統のマウスにゴールドチオグルコースを投与し視床下部性の肥満を誘発し、糖尿病素因の程度を調べた。C57Bマウスは耐糖能異常で留ったが、ICRとKKマウスは高血糖を発症した。ICRマウスは通常では高血糖を示さないので、3系統のマウスの遺伝的糖尿病素因はC57B<ICR<KKの順になることを明らかにし、肥満と糖尿病発症の関連を明確にした。これら一連の研究によって、KKマウスは糖尿病の前期段階から真性段階への過程を調べるのに最も適したモデルであると位置付けた。1967年にはKKマウスに肥満発症遺伝子AYを導入し若齢期から肥満と糖尿病を発症するKKAYマウスを名古屋大学農学部から譲り受けた。KKAYマウスはヒトの成人型糖尿病と似た病状を示すことから、1969年からインスリン感受増強薬の探索と糖尿病の成因及び先天的素因の解明に利用し、1975年チアゾリジンジオン骨格の発見に至った。1981年にはZucker fattyラットの肥満発症遺伝子faをWistar kyotoラットに戻し交配し、新系統の肥満糖尿病Wistar fattyラットを確立し、α―グルコシダーゼ阻害薬ボグリボースやインスリン抵抗性改善薬ビオグリタゾンの薬効評価に利用した。
 核内受容体PPARあるいはレプチンの発見は糖尿病や肥満の病因解明に新たな切り口を提供し、近い将来には糖尿病の原因遺伝子も明かになるであろう。当社の糖尿病グループでも分子生物学に強い連中が多くなり、創薬に対する取り組み方も変わってきた。従来の動物そのものでの評価から膜や細胞レベルでの評価が主流になりつつある。しかし、時に偉大な先輩達の足跡を振り返り、糖尿病動物の病態に関して今でこそ出来る新たな研究に挑戦をして欲しい(温古知新)。  
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